月と太陽の事件簿16/さようならの向こう側
「オレが後を追う。カホは人を呼べ」

達郎兄ちゃんは車椅子から離れると、小走りで階段に向かった。

あたしは周りを見回したが、人の姿はなし。

仕方なく車椅子を進めて、達郎兄ちゃんの後を追う。

階段の下まで来た時、ドアを開け、屋上へと入る達郎兄ちゃんの姿が見えた。

次の瞬間。

「おい、やめろ!」

普段聞いたことがない、達郎兄ちゃんの怒声が聞こえた。

あたしの心臓がどくんと音をたてる。

必死に辺りを見回すと、ひとりの看護婦さんの姿が見えた。

「あの、すみません!」

あたしが叫ぶと、その看護婦さんは驚いた顔で、あたしのもとに駆け寄ってきた。

「どうしたんですか?」

年の頃は20代前半。

ぽっちゃり気味のその看護婦さんに「人を呼んで下さい!」と言って、屋上を指す。

「誰か自殺しようとしてるんです!」

「ええっ!?」

看護婦さんは目を丸くすると、あたしを置いて階段を登りはじめた。

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