月と太陽の事件簿16/さようならの向こう側
和夫さんはあたしの目の前で、ソファに座ってうなだれていた。

ここは病院の応接室。

取り押さえられた和夫さんを落ち着かせるため、どこか部屋をと達郎兄ちゃんが言ったら、婦長さんがこの部屋を用意してくれたのだ。

その婦長さんは和夫さんの隣に座っている。

達郎兄ちゃんはあたしの隣。

つまりあたしたちと向かい合わせで、婦長さんと和夫さんが座っているわけだ。

「なぜあんな真似をしたんですか」

達郎兄ちゃんの問い掛けに対し、和夫さんは無言だった。

「多江の後を追おうとしたの?」

婦長さんの言葉に、和夫さんは肩を一瞬、大きく震わせる。

「それだけじゃ、ないんです」

しぼり出すように和夫さんは言った。

「多江さんを殺したのは僕なんです。だから死んで償いを…」

その告白に、あたしと婦長さんは目を大きく見開き、隣の達郎兄ちゃんは、唇を尖らせた。

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