月と太陽の事件簿16/さようならの向こう側
声にならなくなった和夫さんの告白に、婦長さんが補足をする。

カチ。

カチカチ。

歯が震えて音をたてはじめた。

やがて震えは全身に移った。

『多江さんは目の前にいる』

『最初から負けた気でいるのは駄目』

どちらも以前、あたしが和夫さんに対して言った言葉だ。

和夫さんが多江さんに真実を告げたのは多江さんの死の前日。

ということはあたしと喫茶室で話した日。

和夫さんはあたしと喫茶室で話した後、多江さんに真実を告げたのだ。

帰るなんて言っておきながら、そのまま多江さんのもとへ向かったのだ。

たぶんあたしの言葉に背中を押されて。

だとしたら…。

「カホ、病室に戻ろう」

震えるあたしの肩に、達郎兄ちゃんがそっと手をそえた。

前を見れば、むせび泣く和夫さんに、婦長さんが必死に言葉を投げかけている。

叱咤とも、なぐさめともとれる言葉を。

確かにあたしたちがいてもしょうがないね。

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