月と太陽の事件簿16/さようならの向こう側
達郎兄ちゃんに促され、あたしは応接室を後にした。

「何があった、カホ」

病室に戻るなり、達郎兄ちゃんがあたしの両肩をつかんだ。

「何がって…」

「お前のそんな顔を見るのは初めてだ」

達郎兄ちゃんがあたしの目をまっすぐに見た。

いつもは憂いを含んだその瞳には、真剣な色が浮かんでいる。

達郎兄ちゃん、本気で心配してくれているんだ。

そう思ったら、涙があふれてきた。

「どうした、カホ」

両肩をつかむ達郎兄ちゃんの手に力がこもる。

「ごめん達郎兄ちゃん」

「どうしたんだ一体」

「せっかく、達郎兄ちゃんが忠告してくれたのに…」

『短気は起こすなよ』

あの日の達郎兄ちゃんの言葉が、脳裏によみがえる。

「あたしね…」

あたしはすべてを達郎兄ちゃんに話した。

喫茶室で和夫さんと話をしたこと、和夫さんに自分の意見をぶつけてしまったこと、そしてそれを達郎兄ちゃんに黙ってたこと…。

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