月と太陽の事件簿16/さようならの向こう側
「そろそろ時間かな」

達郎兄ちゃんは腕時計を見ながら言った。

時刻は午後8時半を回ったところ。

あたしたちは病院の外にいた。

「高森さん、場所はこのあたりですか」

「はい」

達郎兄ちゃんにそう訊かれうなずく高森さん。

あたしはその高森さんの服装にものすごい違和感を感じていた。

スーツの達郎兄ちゃんとジャージ姿で車椅子のあたしと並ぶ高森さんは、肩もあらわなドレス姿だったのである。

色はパステルピンク。

胸にはバラをセクシーにあしらっている。

メイクもばっちり。

ただ、場違いなカッコなのは言うまでもない。

気合い入るのはわかるけど、夜勤あけによくやるわ。

たきつけたあたしが言うのもなんだけど。

「婦長さんは、ここから屋上を見上げたんですよね」

顔を上げた達郎兄ちゃんにあわせて、あたしたちも屋上を見上げる。

「屋上に何か見えませんか」

そう言われて目をこらしてみれば、屋上に誰かいるような。

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