月と太陽の事件簿16/さようならの向こう側
「ということは、昨夜の藤上医師の行動は、本人以外、誰にもわからないわけだ」

あたしは鈴木さんの証言を思い出した。

藤上医師は上の階から個室を見回っていたはず。

ではなぜ誰もその姿を見ていないのか?

「こっちの方は?」

達郎兄ちゃんはバックから本を取り出した。

婦長さんから借りた投資の本だ。

「達郎の言った通りね」

麗美姉ちゃんは手帳をめくった。

「才能がないとしか言い様がないくらい、大損してるわ」

「誰の話?」

あたしが訊くと、達郎兄ちゃんは

「これの持ち主」

と本をかざした。

どうやら婦長さんから本を借りたのは、推理の材料を集めるためらしい。

やはり達郎兄ちゃんは経済や投資には興味はなかったのだ。

「あと、もうひとつの事も、達郎の予想通りよ」

「もうひとつ?」

おうむ返しに麗美姉ちゃんに訊くと、達郎兄ちゃんは床を指した。

「ここの持ち主のこと」

「あたしの病室がどうかしたの?」

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