月と太陽の事件簿16/さようならの向こう側
「持ち主はカホじゃないでしょ」

麗美姉ちゃんが柔らかいチョップをあたしの脳天に落とした。

「正しく言うと病院の経営者のことよ」

「それがどうかしたの」

「レミ、残りの資料は」

手を出した達郎兄ちゃんに、麗美姉ちゃんは1冊のファイルを渡した。

あたし無視されてるなぁ…。

「雪村多江の司法解剖の結果と、雪村多江の家族構成、病院関係者の証言をまとめておいたわ」

達郎兄ちゃんはうなずいた。

「監察医の上野先生に感謝しなさいよ。だいぶ無茶を聞いてくれたんだから」

「今度、好物の金つばを送ると言っといてくれ」

ファイルを見ながら、達郎兄ちゃんは言った。

「まったく、たまにはあたしにもお礼を頂戴よ」

達郎兄ちゃんは無言を返した。

「達郎兄ちゃん、相づちぐらい打ってあげたら」

あたしはそっけない態度に抗議したが、達郎兄ちゃんは無言のまま。

もう一度呼びかけようとした時「しっ」と麗美姉ちゃんが人差し指を唇にあてた。

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