月と太陽の事件簿16/さようならの向こう側
あたしは達郎兄ちゃんをにらんだ。

「湯月くん行っちゃったじゃない!」

「落ち着け」

達郎兄ちゃんの手があたしに向かって延びる。

「最近は携帯やメールという便利なもんがあるだろうが」

「わ、わがっだがらはにゃひて」

→【訳】わ、わかったから放して

あたしは鼻をつまむ達郎兄ちゃんに、そうお願いした。



―――――――――――



達郎兄ちゃんの家庭教師が終わると同時に、夕食の時間になった。

「じゃ、また明日」

ひらひらと手を振りながら出て行く達郎兄ちゃんの背中に、小さく舌を出しながら、あたしは夕食に向かった。

夕食を終えると、あたしは携帯をジャージのポケットに入れ、松葉杖をついて屋上へ向かった。

個室とはいえ、病室での携帯の使用は禁じられている。

ホールは面会用で、他にも患者や見舞客がいた。

電話で話はしずらい。

自意識過剰に思えるかもしれないが、彼氏との会話を他人には聞かれたくない。

< 14 / 166 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop