月と太陽の事件簿16/さようならの向こう側
…なに言ってるの?

「注射後に、睡眠導入剤のニトラゼパムの錠剤を飲んで、ぐっすり眠ってください」

ジアゼ…? ニトラ…?

「インフォームド・コンセントには程遠いかもしれないが、医者にこう言われたら、患者は従うんじゃないか」

あ、そういうことか。

初めて聞く単語ばっかでワケわかんなかったよ。

「あんた文系の癖に薬や医学用語に詳しいのね」

麗美姉ちゃんが眉間にシワを寄せながら言った。

感心してるというより、何でそんなこと知ってるんだと、呆れている感じだった。

「でもやっぱ無理あるんじゃないかな」

今度はあたしが疑問を口にした。

「だって藤上先生は多江さんの主治医じゃないし、精神科医でもないんだよ」

なのにその指示に従うなんて…。

「別に藤上医師にこだわるつもりはないさ」

達郎兄ちゃんはあっさりと言った。

「この病院には、多江さんが信用していた人間がいるだろ」

あたしの頭にある人物が浮かんだ。

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