月と太陽の事件簿16/さようならの向こう側
「まさか、婦長さん?」

「彼女なら、多江さんを眠らせることは容易だっただろう」

「でも…」

あたしには、にわかに信じられなかった。

「実際、婦長にもおかしな点はあるんだ。昨夜の婦長の行動を覚えているか」

「覚えてるかって言われても…」

「婦長が屋上の多江さんに気付いた時の事だ」

「えっと、確か高森さんと一緒に病院の周囲をぐるっと回って、ふと屋上を見上げてみたら、人影が見えたって…」

「そうだ。一方で高森さんは何て言ってた?」

「周囲をぐるって回った後、婦長さんが『多江!』って叫んだんで、振り向いたって言ったよね」

…って、アレ?

「婦長さんと高森さん、言ってること違うじゃん?」

「その通り。今夜の現場検証でわかったと思うが、夜だと屋上に立つ人間が誰かを判別するのは不可能だ」

でも、高森さんの証言によると、婦長さんは屋上にいた人間を『多江』と呼んだ…。

「まさか高森さんがウソをついたの?」

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