月と太陽の事件簿16/さようならの向こう側
達郎兄ちゃんは首を振った。

「婦長は屋上にいた人間を『多江』と呼ばざるをえなかった。なぜなら、多江さんの死を自殺としたかったからだ」

だが、夜に屋上にいる人間の顔を判別するのは不可能。

「それ故、オレたちには人影が見えただけだと証言したんだ」

ウソがバレまいとウソをついたという事か。

「高森さんを自殺の証人にしようという思惑もあったんだろうが、彼女が当日のことをしっかり覚えていたおかげで、矛盾が生じたというわけだ」

「じゃあ屋上にいた人影ってのは…」

「恐らくは藤上医師だろう。婦長が高森さんを病院内に引っ張り込んだのを確認してから、眠らせた多江さんを屋上から投げ落としたんだ」

ということは、婦長さんと藤上先生が共謀して多江さんを殺した…。

「なんであの2人がそんなことを…」

そうつぶやいた時、麗美姉ちゃんがあたしの手をそっと握った。

「大丈夫、カホ。震えてるわよ」

「大丈夫」

あたしはうなずいた。

< 146 / 166 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop