月と太陽の事件簿16/さようならの向こう側
「達郎兄ちゃん、話を続けて」

「わかった。カホは多江さんとこの病院の経営者との関係を知ってるか」

頭の中に、婦長さんから聞いた話が浮かぶ。

『この病院の創始者は私の祖父なの』

それを伝えると麗美姉ちゃんが

「今の経営者はその娘でね、雪村多江の母親や、婦長の父親の姉にあたる人物よ」

と教えてくれた。

独身で子供はなく、姪の娘である多江さんを孫のように可愛がっていたらしい。

でも、もう高齢で、ここ数年はずっと体調を崩している。

心残りは可愛がっていた多江さんの存在。

世界に数例しかない奇病に侵されたまま人生を送るなんて。

そう思った経営者は、死後、遺産を全額多江さんに譲ると決めたそうだ。

「その額は5億とも6億とも言われているわ」

…想像もつかないや。

「むろん財産管理は弁護士等、第3者に任せるつもりだったそうだが、そのことによって、困る人間が出てきた。この本の持ち主だ」

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