月と太陽の事件簿16/さようならの向こう側
唯一残された場所が屋上というワケだ。

病院は五階建て。

だがあたしの病室は五階だったので、松葉杖でも屋上には苦もなく上がれた。

己の運動神経と体力に感謝って感じだね。
(入院してるけどさ)

松葉杖に体を預けながら屋上のドアを開ける。

時刻は午後六時を過ぎていたが、この時期、屋上はまだ明るかった。

屋上の一画にはベンチがひとつ。

そこに一人の女性が座っていた。

長い黒髪に白い肌。

小さな鼻と唇が頼りなさげな印象を与えている。

年齢は二十歳ぐらい。

よく美人の例えで出てくる深窓の令嬢っていうのは、こういう女性のことを言うのだろうか。

あたしがその横顔に見とれていると、美女はあたしの存在に気づいて、あらっという顔をした。

「どうぞ」

美女は腰を浮かせると、あたしの分のスペースを空けた。

あたしはその行為に甘えるように隣に座る。

彼氏との会話を聞かれたくなくて屋上に来たというのに、人の隣に座ってどーすんだ。

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