月と太陽の事件簿16/さようならの向こう側
「なんか悲しい思い出になっちゃったな」

そうつぶやいたあたしに、達郎兄ちゃんは

「忘れる必要はない」

と言った。

「カホが忘れなければ、多江さんはずっと、カホの中で生き続ける」

「達郎兄ちゃん…」

「それが多江さんのために生きるって事だ」

「わかった」

多江さんのことは絶対に忘れない。

あたしはネックレスを握りしめた。

「ね、それって…」

言いかけて、麗美姉ちゃんは口をつぐんだ。

口が『お』の形になってたから

『お母さんのこと?』

と言いかけたんだろう。

あたしにはわかる。

達郎兄ちゃんは小さい頃にお母さん(あたしから見ると【伯母】か)を亡くしている。

それ以来ずっと、達郎兄ちゃんはお母さんの存在を心の中に留めているのだろう。

達郎兄ちゃんの瞳には、いつも憂いの色が浮かんでいるけれど、きっとそれは、達郎兄ちゃんの中でお母さんが生き続けている証拠だ。

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