月と太陽の事件簿16/さようならの向こう側
思わず前のめりになったあたしの脇から、何かがポトリと落ちた。

「あ」

「あら?」

最初があたしで、その次が高森さん。

互いの視線の先にはシーツの上を転がる体温計。

しばらく間があいた後、あたしと高森さんはほぼ同時にふき出した。

「旭さんて面白い子なのね」

高森さんは体温計を拾いあげた。

「高森さんだって」

あたしは体温計を受け取った。

「あたし看護婦さんって、もっと粛々と仕事するのかと思ってました」

「婦長さんには内緒よ」

高森さんは人さし指を口にあてた。

「患者さんとこんな話してたのがバレたら、大目玉だわ」

「厳しい人なんですか」

高森さんはうなずいた。

「人の命に関わる仕事だから当たり前なんだけどね」

「あ、でも…」

あたしは昨日の婦長さんと藤上先生のやり取りを思い出した。

「藤上先生とは和気あいあいって感じでしたよ」

高森さんの言うように、厳しい人には見えなかった。

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