月と太陽の事件簿16/さようならの向こう側
「ごめんなさい。隆夫さんからメールが入ったものだから」

彼氏の名前は隆夫って言うのか。

「食事はそのままにしておいてあるから、早く部屋に戻って食べなさい」

「はい」

多江さんは立ち上がると

「それじゃ旭さん、またね」

あたしに小さく手を振って屋上を出ていった。

「旭さん」

多江さんの後ろ姿を見送った婦長さんは、あたしに向き直った。

「多江と仲が良いの」

婦長さんは、やや固い口調で言った。

「知り合ったのは昨日です」

あたしは正直に答えた。

「そう」

「多江さんて、婦長さんの親戚なんですか」

「誰から聞いたの」

「あ、いや…今の会話の流れをみてそうなのかなと…」

ウソだった。

多江さんと婦長さんの関係は、高森さんから聞いていた。

言葉をにごした高森さんは(おそらく)話題を変えようとして、そんなことを話したのだろう。

「おしゃべりな子がいるようね」

婦長さんにあたしのウソは通じなかったようだ。

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