月と太陽の事件簿16/さようならの向こう側
「全く、患者のプライバシーを漏らすなんて」

ううっ、高森さんが怒られませんように。

「多江は私の姪よ」

仕方ないという表情で、婦長さんは言った。

「私の姉があの子の母親なの」

「ご両親は…」

「あの子が6歳の時に死んだわ」

交通事故だったという。

「出張帰りの義兄を姉が駅まで迎えに行ってね」

その帰り道、居眠り運転のトラックと正面衝突。

即死だったそうだ。

「多江は義兄の両親が引き取ったの」

「あの…」

勢いで訊いてみることにした。

「多江さんは、何で入院してるんですか」

「もうわかってるんじゃないかしら」

「え?」

「あの子、隆夫さんからメールが入ったって言ったでしょ」

「はい」

「隆夫ってのは誰か知っているでしょう」

「…多江さんの恋人ですよね」

「そう。今は天国にいる人よ」

やっとわかった。

多江さんが入院してる理由が。

婦長さんは言った。

「あの子…多江は心を病んでいるのよ」

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