月と太陽の事件簿16/さようならの向こう側
多江さんと隆夫さんが知り合ったのは2人が高校生の時。

同級生の隆夫さんが、多江さんに告白して交際が始まったという。

でも半年もしないうちに多江さんの方がずっと、隆夫さんを想い慕うようになったそうだ。

「多江は本当に隆夫君のことを愛していたわ」

将来も誓いあってると、周囲の人間は思っていたし、本人たちもそのつもりだったろう。

だがそんな2人の幸せは去年のクリスマスに呆気なく終わった。

聖夜を共に過ごすため、多江さんの家に向かっていた隆夫さんのバイクが事故を起こしたのだ。

「運転を誤って電柱に激突したの。ほぼ即死状態だったわ」

そんな隆夫さんが搬送されたのがこの病院。

「隆夫君の遺体と対面した多江は、それはもう泣いて泣いて…」

翌朝、目を真っ赤にして皆の前に現れた多江さんは、多江さんでなくなっていたという。

食事もとらずに自室にこもり、窓から一日中外を眺めるだけ。

周囲の人間が何を言っても反応しない。

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