月と太陽の事件簿16/さようならの向こう側
『天国に行ってもメールをくれるなんて』

そう言う多江さんは、隆夫さんが死んだ事を、はっきりと認識していた。

にも関わらず、隆夫さんからメールが来た事を疑いもしなかった。

『間違いないわ。メールアドレスは隆夫さんの物だもの』

訝る婦長さんに、多江さんはそう反論した。

そして不可思議なメールのやり取りが始まった。

今では完全に多江さんの生活の一部となっているという。

病院側も、そのメールが慰みや励ましになるならと静観している状態だ。

「私も、口を出すつもりはないわ」

「あの、いいですか」

あたしは問わずにいられなかった。

「そのメールの送り主って、本当に隆夫さんなんですか」

「多江は、そう思っているわ」

「本当の送り主は…」

「ごめんなさい。話せるのはここまでよ」

さらなる問いかけを、婦長さんは制した。

「さっきも言ったけど、本当は個人の病状を第3者に漏らすのは、モラルに反することなの」

< 34 / 166 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop