月と太陽の事件簿16/さようならの向こう側
でも旭さんは特別の様だからと、婦長さんは付け加えた。

「特別って」

「多江が他の患者さんと話をしたのは、旭さんが初めてなのよ」



―――――――――――



夕方。

やって来た達郎兄ちゃんに多江さんの話をした。

むろん軽々しい気持ちで話したわけではない。

死んだ人間からメールが来るなんて、そんな話が本当にあるのか信じられなかったのだ。

ここはぜひ、名探偵・月見達郎の解釈を聞きたいという、そんな気持ちだった。

達郎兄ちゃんは興味をそそられたようで、勉強そっちのけであたしの話を聞き続けた。

「ふぅむ」

達郎兄ちゃんはベッド脇のパイプ椅子に腰掛けたまま、唇を尖らせた。

考え事をする時の癖だ。

「達郎兄ちゃん、どう思う?」

達郎兄ちゃんはパイプ椅子の下に手を伸ばした。

そこには紙袋。

病室に入ってきた時に持ってきたものだ。

あたしは紙袋を受け取った。

中をのぞくと豆乳プリンがふたつ。

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