月と太陽の事件簿16/さようならの向こう側
仕事の話に違いないんだけど、高森さんから話を聞いていたあたしは、デートの打ち合わせかしらんなどと、勝手な自己変換をしてしまった。

「どうした、カホ」

あたしの様子に気付いた達郎兄ちゃんは、訝しげな口調で言った。

「あのね…」

あたしは高森さんと仲良くなったこと、そして藤上先生と婦長さんの関係を説明した。

「入院中に何をしてるんだ、お前は」

達郎兄ちゃんの右手が伸び、あたしの鼻を一回つまんだ。

「別にいいじゃない」

あたしは唇を尖らせた。

「勉強しろ、勉強を」

「達郎兄ちゃんだって、家庭教師を後回しにしてるじゃない」

そう抗議したものの、あっさり無視された。

ちくしょー…。

…あ、そう言えば。

「そういや高森さん、達郎兄ちゃんのこと、カッコいいって言ってたよ」

どんな反応が返ってくるのか、楽しみにしながら言ってみる。

はたして、返ってきた返事はたった一言「ふーん」だった。

< 50 / 166 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop