月と太陽の事件簿16/さようならの向こう側
「和夫さんのことが心配なのよ」

多江さんは携帯に目を落としたまま言った。

「あ…」

不意に多江さんがあたしを見た。

「内緒ね、旭さん」

多江さんが携帯を示しながら言う。

病室での携帯の使用は原則禁止。

だから内緒にしてくれと言っているのだろう。

いつもなら屋上に行くだろうに、今日は雨だからね。

「旭さんはどうして怪我をしたんですか」

和夫さんがあたしに話かけてきた。

あたしは先日、多江さんに伝えた内容を繰り返した。

「猫を助けたんですか。恰好いいですね」

和夫さんは眼鏡の奥で目を細めた。

んー、ホメてくれてるんだろうけど、おかげでこの松葉杖姿だからなぁ。

「返事、送ったわよ」

多江さんが言った。

「授業はきちんと出てますって伝えておいたわ」

「余計な事は書いてないだろうね」

「大丈夫よ」

多江さんと和夫さんとの笑顔のやり取りの中で、あたしはふと気付いたことがあった。

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