月と太陽の事件簿16/さようならの向こう側
「兄さんは幸せ者だな」

その声には慈しむような響き。

「多江さんみたいな素敵な人に、こんなに慕われて」

「何を言ってるの」

携帯の画面を見ながら、多江さんは照れたように言った。

「送ったわ」

多江さんがそう言ってしばらくしてから、和夫さんの携帯が鳴った。

和夫さんは躊躇なく携帯を開くと、画面を見つめた。

そこには多江さんからのメールが入ってるのだろうか。

あたしは横目で多江さんを見た。

多江さんは自分の携帯をじっと見ていた。

きっと隆夫さんからの返事を心待ちにしているのだろう。

そういえば昨日もこんな感じだった。

『多江さんが、和夫さんに無関心というのが、気になる』

達郎兄ちゃんの言葉が脳裏に浮かぶ。

その通りだったのだ。

多江さんは、和夫さんが目の前で携帯をいじってても、まるで意に介さない。

一方で、和夫さんも全く気にした風もなくメールを打っている。

改めて思った。

なんなんだ、この2人?

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