月と太陽の事件簿16/さようならの向こう側
そう思ったあたしは、とたんにこの場に居づらくなった。

どのみちこのままでは湯月くんにメールを打つ気にはなれない。

あたしは何かひとつふたつ理由を言って、屋上を後にした。

「旭さん」

階段を降りきった時、背後から声をかけられた。

振り向くと、和夫さんが階段の真ん中に立っていた。

「旭さん」

和夫さんはもう一度あたしの名を呼ぶと、階段を一気に降りてきた。

「すまない、足が悪いのに、呼び止めるようなことをしてしまって」

そう言ったきり、和夫さんの口からは次の言葉が出てこなかった。

2・3度口を開きかけては閉じるといったことを繰り返す。

なんか、湯月くんを思い出すなぁ。

同じメガネ男子だし。

…いかん、なんかイライラしてきた。

「あの、なにか?」

じれたあたしが和夫さんに訊くと、和夫さんはようやく口を開いた。

「君は多江さんの病気のことを知っているよね」

< 65 / 166 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop