月と太陽の事件簿16/さようならの向こう側
「知ってますけど、誰に聞いたんですか」

当然の疑問だと思う。

「婦長さんとの話の中でね」

へぇ。

あたしは少し驚いた。

婦長さんと和夫さんは親しいらしい。

もしかしたら、多江さんと和夫さんは恋人の弟という関係以上なのかも。

「あの」

あたしはその疑問を口にした。

「和夫さんは多江さんと付き合ってるんですか」

あたしの言葉に、和夫さんは眼鏡の奥の目を丸くした後、苦笑いをした。

「どうしてそう思ったんだい」

そう訊かれて困った。

ただ何となくだから。

「だって、昨日も今日も多江さんに会いに来てますし…」

必死に考えた理由を口にする。

「昨日は土曜で、今日は日曜日だよ」

あら…。

そう言われて気付いた。

入院生活というのは、曜日の感覚をもマヒさせるらしい。

「多江さんに会いに来ているのは、僕が多江さんのことを好きだからだ」

和夫さんはさりげなく大胆なことを口にした。

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