月と太陽の事件簿16/さようならの向こう側
「でも、それはあくまで僕の片想い。多江さんの心の中にいるのは、今でも兄さんだよ」

真面目そうな外見に合わず、和夫さんはロマンチストらしい。

お兄さんの恋人を好きになったりと、人はみかけによらないもんだ。

「話を戻していいかい」

そうだ、話しかけられたのはあたしの方だった。

「旭さんが知っているように、多江さんは心を病んでいる」

原因は和夫さんの兄である隆夫さんの死。

そして多江さんは一時期抜け殻のようになった。

「だけど最近の多江さんは笑うようになり、朗らかにもなった。その理由も知ってるよね」

「隆夫さんからのメールですよね」

ある日届いた天国からのメールで、多江さんは抜け殻から脱したのだ。

「その通り」

和夫さんはうなずいた。

そして、手にしていた携帯電話を掲げた。

「もうわかっているだろう?」

あたしは自分の考えが間違いでなかった事を確信した。

「あのメールの送り主は僕なんだ」

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