月と太陽の事件簿16/さようならの向こう側
和夫さんの視線が、いつの間にかあたしから外れていた。

「だから僕はある日、決意した。僕が兄になってやると」

「お兄さんに…?」

「きっかけは、遺品の中から兄の携帯を見つけたことだった」

携帯の中を見た和夫さんは、多江さんと隆夫さんが頻繁にメールをしていたことを知った。

「事故があった日も、兄は携帯を持っていたはずなんだ。でも無傷で戻ってきた」

そのことに和夫さんは運命的なものを感じたという。

「兄の携帯で多江さんにメールを打ったのは、何気なくだった」

和夫さんはそう語ったがあたしは嘘だと思った。

何がしかの算段はあったはず。

でも追求はしなかった。

「打ったのは空メールだった。言葉が浮かばなくてね」

ここは本当だと思った。

「でも、多江さんからは、すぐにメールが返ってきた」

『隆夫さんなの?』

どうやら多江さんは疑いもしなかったらしい。

「その瞬間、僕は兄になることを決意した」

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