月と太陽の事件簿16/さようならの向こう側
『入院生活すごくヒマ。お見舞いきて』

あたしはメールの送信ボタンを押した。

昼食後、たっぷり1時間かけて推敲した文章だ。

送信先はもちろん湯月くん。

他人にアレコレ言うなら自分も行動しないとね。

病室で携帯使ったのは、この際大目にみてもらおう。

5分待ったが返事はこなかった。

まぁ気長に待つことにする。

携帯と財布をジャージのポケットに入れて、松葉杖を手にとる。

向かった先は病院の1階にある売店。

いちごオレとポッキーを買った。

基本ベッドに寝たきりだから、甘い物は敵なんだけど、たまにはね。

品物を入れた袋を右手に引っ掛けるようにして病室に戻ろうとした時

「持とうか」

そう声をかけてきたのは和夫さんだった。

「あ、はい」

そのさわやかな物言いに、思わず袋を差し出してしまう。

袋を受け取った和夫さんは

「ちょっといいかな」

と、通路の奥をアゴで指した。

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