月と太陽の事件簿16/さようならの向こう側
達郎兄ちゃんに話したことは、しらばっくれることにする。

「ありがとう」

和夫さんは安心したような笑顔を見せた。

「訊きたいことがあるんですけど」

あたしは言った。

「なぜ多江さんは気付かないんですか」

「どういうことだい」

「和夫さんが目の前でメールを打ってるのに、多江さんがそれを気にしないのが不思議なんです」

「そのことか」

和夫さんは今さらという顔を見せた。

「簡単なことだよ。多江さんには見えていないんだ」

「見えていない?」

何のことか、よくわからない。

「多江さんは、イェマント氏病という病気にかかっているんだ」

イェマント氏病。

達郎兄ちゃんが言ってた病気だ。

多江さんは本当にその病気の患者だったのだ。

「イェマント氏病は、とても珍しい病気で、世界でも数えるほどしか症例がない」

それは知ってたけど、この際はもう、黙ってることにする。

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