月と太陽の事件簿16/さようならの向こう側
「イェマント氏病患者の最大の特徴は、指向性超覚醒であること」

指向性超…なんだ?

あたしの顔に浮かんだ?マークに気付いたのか、和夫さんは補足した。

「指向性超覚醒とは、ひとつの物事に集中し過ぎること」

集中し過ぎると周りが見えなくなるというが、それの極端なやつらしい。

多江さんにとって、その対象となるのが、隆夫さんとのメールのやり取りなのだという。

「兄さん…いや、僕がなりすましている兄とのメールのやり取りの時、多江さんはほとんどの物事に関心がなくなる」

つまり和夫さんが目の前でメールを打っていても、全く気にならなくなるらしい。

「ひどい症状って感じじゃなかったですけど」

隆夫さん(正確には和夫さん)の誤字を見つけて笑う多江さんは、普通の人のようだった。

「多江さんが自分からそう振る舞っている分には問題ないんだ」

和夫さんは指でテーブルをトントンと、2度、叩いた。

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