月と太陽の事件簿16/さようならの向こう側
「でもメールしてる時の多江さんと話してみるとわかる。きっと違和感を感じるはずだ」

それがイェマント氏病の特徴なのか。

それとも心の病とは全てそういうものなのか。

あたしには分からなかったけど、和夫さんの心の中に、いらだちが生まれていたのは確かだった。

テーブルを叩く指が、止まらなくなっていたからだ。

メールをしてる時の多江さんは、隆夫さんへの想い一色になっているのだろう。

多江さんを慕う和夫さんにしたらそれは…。

「でも、これからも隆夫さんとしてメールをし続けるんですね」

「そのつもりだよ」

和夫さんは笑った。

指の動きは遅くなったけど、止まりはしない。

「それが多江さんのためだと思うし…」

思うし…?

「僕自身も多江さんに会いたいしね」

メールを続ける限り、多江さんと接点が持てる。

和夫さんはそう言いたいんだと思う。

でも…。

「和夫さんはそれでいいんですか」

あたしは思わず言ってしまった。

< 80 / 166 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop