月と太陽の事件簿16/さようならの向こう側
「目の前にいるのに、それでいいんですか」

これが昨日、あたしがイラついた理由だ。

達郎兄ちゃんに諭されたのに、つい本人に言ってしまった。

心臓の鼓動がどんどん早くなってゆく。

ああ、自分の性格がうらめしい。

「君に…」

和夫さんの口が「何が分かる」の「な」の字を作った時、あたしは怒鳴られるのを覚悟した。

思わず目を伏せる。

しかし、和夫さんの言葉は続かなかった。

「…?」

目を開けると、和夫さんは喫茶室の天井を眺めていた。

「嫌な予感がしていたんだ」

和夫さんは大きくため息をついた。

「昨日、メールの秘密を話した時、不安になったんだ。もしかして君…旭さんが口外しやしないかと思ってね」

…間違ってないけど、この場は沈黙を返す。

「それで今日、改めて話をしようと思ったんだけど、まさかこんな展開になるとはね」

和夫さんの口元には笑みが浮かんでいた。

それが自嘲か苦笑いかはあたしにはわからない。

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