月と太陽の事件簿16/さようならの向こう側
「それあげるわ」

ええッ!?

「も、もらえません!」

返そうとするあたしの手を、多江さんはそっと制した。

「退院祝いよ」

「で、でも」

「それね、隆夫さんが買えばいいって言ってくれたネックレスなんだ」

「だったらなおさら…」

言った後で気付いた。

薦めたのは、隆夫さんじゃない…。

「いいのよ、もう」

多江さんの笑顔に、あたしはもう何も言えなくなった。

「お礼だと思って受け取って」

お礼…?

訝るあたしを置いて、多江さんは立ち上がった。

「ありがとう、旭さん」

あたし別にお礼を言われるようなことは何も…。

「さようなら」

多江さんは屋上から立ち去った。

あたしは黙って、多江さんの後ろ姿を見つめることしかできなかった。

「あ…」

あたしは気付いた。

多江さん、今日は一度も携帯を開かなかった…。


―――――――――――


病室に戻ると、携帯にメールが入った。

< 93 / 166 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop