月と太陽の事件簿16/さようならの向こう側
「本日バイト。家庭教師は休み」

達郎兄ちゃんだった。

昨日の今日だ。

「逃げたな」

あたしは(勝手に)そう解釈した。

ベッドに座って、多江さんからもらったネックレスを眺める。

猫のシルエット部分はローズピンクになっていて、とても綺麗。

ホント、なんでくれたんだろ。

いくら退院祝いだからって…。

多江さんの感じも何か変だった。

今まではいかにもお嬢様って感じだったけど、今日は普通のお姉さんって気がした。

口調もサバサバしていたような。

和夫さんから指向性超覚醒(何とか覚えた)の話を聞いたせいか?

それが頭に入ってたから、多江さんがいつもと違う感じがしたとか…。

いや、違うな。

指向性超覚醒とやらは、そんな症状じゃなかったはず。

あれこれ頭をひねっていると、病室のドアがノックされた。

「失礼します」

婦長さんの後に、藤上先生が入ってくる。

回診の時間だった。

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