月と太陽の事件簿16/さようならの向こう側
藤上先生の診察を受けている間、あたしは何度か婦長さんの様子をうかがった。

多江さんの事で何か訊けるかと思ったからだ。

でも藤上先生がいたのでそれはできなかった。

また、藤上先生も何か様子が変だった。

首にかけている聴診器をわざわざ探したり、その聴診器をあたしにあてたまま、固まったり。

「先生」

そのたびに婦長さんが声をかけて、藤上先生が我に返るといったやり取りがあった。

多江さんだけじゃなくて、藤上先生までいつもと違う?

何か今日は変な日だ。

夕食まで、学校から渡されたプリントと、達郎兄ちゃんから出された課題をやった。

この生活もあと少しか。

課題を終えた頃、ちょうど夕食になった。

今日はデザートがついてきた。

小さなカップに入ったプリンで、指先ほどの生クリームにサクランボが乗っている。

アラ・モードのつもりだろうか。

病院からの退院祝いかと思ったけど、そんなワケないよなぁ。

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