氷女子と水男子
「…え?」
(多季が…俺のこと…?)
最初は理解出来なかったが、そのうちなんとなく分かった。
「え、なんで俺なんか…」
そして最初に出た質問がそれだった。
あの、可愛いって評判の多季が、と水斗は思う。
それよりも、気になることがあった。
(あの時って…何?)
いまいちピンと来ない。
多季の中で決定的な何かがあったんだろうが、水斗は覚えていないのだ。
でも、それを聞いてしまったら、多季が傷つくだろう。
だから、聞かないことにした。
「なんでって…だから、あの日のことがあったから…」
多季はいたって真剣だ。
「あ、あの! 返事とかは、いつでも良いから!」
と言って、多季は走り去って行った。
「……あー」
その場に一人取り残された水斗は、ただ立ち尽くす。
(返事、とか言われてもなぁ…。俺は氷華が好きなんだし…)
と、そこまで思ってから、自分で恥ずかしくなる。
(やっぱり、断った方がいいよな!)
うんうん、と水斗は一人うなずいて、大輔と弘樹のもとへ戻ろうと歩みを進めた。