氷女子と水男子
「……俺、謝ってくる」
水斗はそう言うと、席を立って走っていった。
そこでちょうど2時間目開始のベルが鳴る。
「おーい、みんな席つけー。てかさっき水斗が走っていったんだが…トイレか何かか?」
「……」
入ってきたハゲ頭の教師に、みんなは冷たい目線を浴びせたそうな。
(何よ、水斗のバカバカバカ!)
氷華は膝を抱えてうずくまっていた。
目からは涙がとめどなく落ちる。
(確かにわたしの言い方も悪かったけどさ…でもあんな言い方ってないじゃない!)
ここは屋上。
真夏の風が氷華の肌をくすぐった。
今日は少し曇っていて、太陽は照り付けていなかったが、それでも十分に暑い。
本来ならば真夏の風は大歓迎なのだが、今の氷華には少しの風も鬱陶しかった。
(でも…今思うと、わたしってホント嫌な女子…)
氷華は自分のことを振り返る。
(素直じゃないし、口悪いし、性格悪いし…。おまけにスタイル良くないし、多季みたいに可愛くもないし……)
多季のことを思い出して、また悲しくなる。
(水斗はさっきので完全にわたしのこと嫌いになっちゃったんだろうな…。だから、このまま多季と付き合っちゃうのかな)
もしそんなことになったら、素直に喜べそうにない。
(やっぱり、わたし水斗のこと好きだ。なのに、なんで素直になれないの…?)
好き。
たった二文字が、なかなか口に出せない。
言えなくても、素直に可愛らしく接することも出来たのに。そしたら、
(わたしにも、少し望みがあったのかな…?)
氷華は自分の腕の中に顔を埋めた。