氷女子と水男子
「……」
学園に入学してから間もない頃。
「……」
「ね、多季ちゃんてさ、どこの学校から来たの?」
「誕生日とかいつなの?」
「兄弟とかいる?」
同じクラスになった人は多季に興味を持ち、話しかけてくる。
「……」
人見知りだった多季は、自分の席に座りながらおどおどしていた。
「ねー多季ちゃん。そんな堅くならなくてもいいって。気軽にやろ?」
「……あの、」
「?」
ついに多季は我慢できなくなって、
「わ…わたし、職員室に呼ばれてて…ご、ごめん」
と言ってその場を立ち去った。
もちろん用なんかない。呼ばれてもいない。
ただ、あそこは居心地が悪かっただけ。
「……」
廊下ををとぼとぼと当てもなく歩く。
昔からなぜだか、人とコミュニケーションをとるのが苦手だった。
(どうやったら…人と話せるのかな…)
「……あ」
いろいろ考えて歩いているうちに、どこだか分からなくなっていた。
まだ慣れない校舎の中。
完全に迷子だった。
大した広さでもないこの学園でも、構造を掴んでいなければ迷路のようだ。