氷女子と水男子
悲しくなってうつむいた多季を見て、男子は慌てだす。
「……! わ、悪かった。なんか触れてはいけないようなところを…」
「…わたし、人見知りで…、人と上手く話せないの。だから、友達とかあんまりいたことなくて…って、何話してんだろ、わたし。い、今の忘れていいから」
思わず本音をしゃべってしまった多季に、その男子は笑った。
「あんたは大丈夫だって。ほら、今も俺と話してんだろ?」
「……あ…」
そういえば、そうだ。
「わたし、今…普通にしゃべって…」
「うん、あんたならできる。きっとすぐ友達もたくさん出来るし、だから……がんばって」
男子はそう言うと優しく微笑んだ。
その微笑みに、思わず多季は惹かれる。
「こら、下校時刻だぞ! 1年、早く帰れ!」
と、そこで見回りの先生が入ってきた。
「やべっ! さーせん、迷子になっちゃって……」
「何がその年で迷子だ、水斗」
「ホントすんません。今から帰るんで、道教えてくれないッスか?」
「…ほんとに迷子だったのか…」
先生はため息をつく。
「じゃあ、行くぞ。ほら、そこのお前も」
「……」
「おい!」
「…あ、はい!」
呼ばれたのが自分だとわかった多季は、2人の後をついていった。
(水斗、っていうのかな…名前)
その後は水斗と先生の他愛もない話を聞きながら後からついていくだけだった。
結局、自分の名前は教えなかったが、その男子の名前だけ分かったのだ。