君の左のポケットで~Now&Forever~
「コーヒーでも飲むか?」
先に気まずい沈黙を破ったのは、レンだった。
わたしの返事を待たず、レンはさっさとコーヒーを入れ始める。
わたしはそんなレンの後ろ姿を立ったまま見つめていた。
「ほら」
カップをわたしに差し出して、ソファに深く腰掛けたレンは、「ふう」と息をついた。
わたしはレンの入れてくれたコーヒーを持ったまま、まだその場に立ち尽くしていた。
コーヒーの香りが鼻先を掠める。
ブラックが苦手なわたしのコーヒーは、ミルクが混じって柔らかい色をしていた。
「立ってないで座れよ」
「うん」
レンに促されて、わたしの足はやっと動く。
床にぺたんと腰を下ろすと、レンを見上げる形になった。
レンは黙ったままコーヒーを啜っている。
時々、寝息を立てるユウ君を眺めているけれど、わたしの方は見ていない。
(レン…)
俯いてコーヒーを啜るレンの目の前にある携帯電話。
わたしはそれを見ながら、レンの入れてくれたコーヒーを口に運んだ。