君の左のポケットで~Now&Forever~
レンが好き。
それだけで、ダメだろうか。
その想いだけでここにいて、ダメなんだろうか。
「…ごめんね」
「ナナ…?」
「ごめんね、レン」
「…何で謝るの?」
「好きになって」
「……」
「好きになって、ごめんね」
涙は止まらなかった。
言葉を発するたびに、同じ重さで溢れてくる。
それでもわたしは、レンを見上げた。
滲んでよく見えないレンの姿は、消えそうで頼りない。
手を伸ばして掴んだら、空を切ってしまいそうな気がした。
レンはわたしをじっと見て、そっとコーヒーをテーブルに乗せると、ソファから腰をあげて床に座るわたしの前で膝をたてた。
そのまま伸びてきたレンの手が、わたしの頭の上で静かに止まる。
「レン…」
「お前がオレのこと好きってことくらい知ってるよ」
目を細めたレンの顔は、小さく笑っている。
「謝ることじゃないだろ」
「レン…」
「ありがとな」
「…レン…」
「ありがとな、ナナ。でもオレは、よくわからない」
「…うん…」
頭を撫でられたまま、涙がまた溢れだして、頬を伝って首筋を下っていく。
堪え切れなくて両手で顔を覆うと、少し経ってから、レンの腕にそっと包まれた。
「泣くなって」
「ふえ…」
「泣くな」
「レン…」
レンの腕は、背中を優しく摩っている。
好きとか嫌いとかの意味じゃない、もっと別の、いたわるような、図れない気持ちで。