君の左のポケットで~Now&Forever~

「ただいま」とレンが帰ってくると嬉しくて、玄関先まで走っていった。


「おかえり」と言うと、レンは少し照れた顔で、もう一度「ただいま」と言ってくれる。



バイトの日は遅いので、わたしが眠ってしまっていると、目が覚めたときに毛布がかかっているときもあった。



わたしはちょっとずついろんなことを覚えた。


皿洗いとか洗濯とか、ガスコンロの使い方とか、掃除機の使い方とか。



それでも、最初の3日間はすごく大変だった。


何にもできなくて。



初日、わたしが一日中なにも食べないでいたことを知ったレンは、びっくりしてすぐにご飯を作ってくれた。


作ってくれたのはいいけれど…


わたしは箸もうまく使えなかった。



白いご飯さえぽろぽろとこぼしながら、やっとの思いで口に運ぶわたしの姿を見ながら、レンも唖然として持っていた味噌汁を床にこぼした。



なんだか…コントみたいだった。


次の日からレンは、大学に行く前にわたしのためにお昼のおにぎりを握っておいてくれるようになった。


一人で食べるご飯は、あんまり美味しくないんだな…と、おにぎりから顔を出した昆布を見ながら、そう思った。



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