ある日、突然。
「・・・あの」
警察署の一室から出て、薄暗い廊下を歩いていたら、
一人の警察官に話しかけられた。
「・・・間違いなく、妻でした」
妻かどうかを確認して欲しいと、連絡をくれた人だった。
「ご主人、・・・気を確かに」
「私は大丈夫です」
轢かれたはずの妻の顔には、傷はほとんど無かった。
一昨日、ケンカした時とは違って、
安らかな顔をして、横たわっていた。
「それじゃあ」
私が再び歩き出すと。
「待ってください」
また、その人が私を止める。
「・・・これを、お返しします」
そう言って僕に手渡されたものは。
「・・・これは」
「奥様の、携帯電話です。見分が終わりましたので、お返しします」
固く、冷たい携帯電話。
まるで、横たわる妻のように。