霊感少年とメリーさん
「はぁ?!部活を休む?!なんでだよ?!」
信じられない話を聞いた慶太は驚きを隠せず、誰もいない屋上に声を響き渡らせた。
「ちょっと事情があってな。安西先生には話をつけて許可をもらってる」
悪霊対策として休むとは言えない。伝えられない事実を隠しながら陽一は話を続ける。
「部活には出れない分、自主練はやるし、朝練は普段通り参加する。それまでは迷惑かけるが、大会には絶対出るし、足を引っ張らないようにする」
陽一の言葉を聞いて、さらに不服そうに顔を歪める慶太。しかし陽一は、慶太が何を思っているか察しがつくが、本当の理由を言う事が出来ない以上、あえて慶太の思いに気づかない振りをして淡々と話を続けた。そして、慶太にファイルを渡す。
「何だよ、これ……」
「大会までの練習メニュー表だ。お前は真面目に取り組んだら出来る奴なのは知ってる。だから、頼んだぞ副部長。じゃあ、俺は教室に戻るから」
陽一は慶太にファイルを託す。一刻も早く屋上から去ろうと、屋上のドアノブに手をかけてドアを引こうとした途端、背後から伸びてきた慶太の右手により、勢いよくドアが閉められた。
「あっぶね!なにするんだ「転校でもするのか?」…‥‥はぁ?!」
ドアを押さえたまま、俯いた状態で訳の分からない事を言い出す慶太に、陽一は困惑をする。
「何言って「だって可笑しいだろ!この1ヶ月間、お前変だぞ!自転車通学しないって行ってたお前が、突然チャリ通になったし、今まで皆で部活終わったら寄り道してたのに、付き合いが悪くなって帰るしさ!今の話だってそうだ!挙げ句の果てには、部活まで休むって!………なんなんだよ、なんで俺達と距離を置くんだよ!!」
今まで言えなかった不満をぶち撒ける慶太。慶太は、陽一がこの一ヶ月不振な行動をしていたのに気づいてたのだ。陽一も、慶太達にあからさまな態度をとっていた自覚があった。
自転車通学になったのは、霊封石を持ち歩く為に自転車の籠に入れて帰る為。寄り道をしないのも、夜の時刻になれば悪霊達が活動するから、皆を巻き込まないよう帰ってるのだ。
しかし、慶太達に何があっても話せないし、上手くごかす嘘もつけない。だから陽一は………
「ごめん」
謝るしか出来なかった。何も話せなくてごめん。と………。陽一の謝罪に驚き、目を見開く慶太。いつも強気で、冷静なあの陽一が謝った。しかも、罰が悪そうな表情で。しかし、陽一から聞きたかった言葉を返されず、慶太はさらに感情を止まらなくなる。
「謝ってほしいんじゃない!ただ、俺は……!」
相談してほしかった。本当の事を話してほしかった。それだけなのに、その思いを伝えた所で、陽一は絶対に話してくれない。「ごめん」の一言が全てを語っている。
相談出来るなら、こんな状況になってないのだ。慶太や部員たちを拒絶している陽一に、何も出来ない悔しさと、相談をしてくれない悲しみを奥歯に噛み締めた。
「もういい!勝手にしろ!」
悔しさと悲しさが入り交じるぐちゃぐちゃな感情に押し潰された慶太は、陽一の顔を見ないまま屋上を去って行く。
陽一は、慶太が去っていく背中を見続ける事しか出来なかった。自分を心配してくれてる慶太の気持ちを蔑ろにした陽一の胸のうちは、罪悪感でいっぱいになる。友達を酷く傷つけた自覚があったからだ。
「慶太、ごめんな。皆、ごめんな」
どうすることも出来ない思いを拳で強く握りしめて、誰もいない屋上で謝る陽一。ただ、陽一の思いに答える者はおらず、セミの鳴き声が酷く響き渡っていた。