霊感少年とメリーさん
あれから5日が過ぎた。いつもの様に、学校の道場で一人で朝練のメニューをこなす陽一。夕方の部活に出れない分、ここで鍛えないといけない。そう思い、懸命に素振りをする。
「よぅ」
集中をしている最中、誰もいないはずの道場から聞き慣れた声が聞こえた。陽一は、声のする方に慌てて振り向く。道場のドアの所に、不機嫌そうな表情で慶太が立っていた。
「慶太?!今日は、朝練休みだぞ?!」
今日は剣道部の朝練が休みの日。しかし陽一は練習が遅れている為、自主的に参加をしていた。だからこそ、慶太が来ている事に驚いていたのだ。
「知ってる。お前が一人寂しく練習していると思って来てやった」
慶太は陽一の反応にお構い無しに、防具をつけて準備をする。準備が出来ると、膝を曲げて中腰の体制になる。
「部長のサポートをしてやるのも、副部長の務めだから、相手してやる」
「あぁ。頼む」
屋上の件以来、陽一の事を避けていた慶太が自ら話しかけてきてくれた。陽一はその事を嬉しく感じ、防具を着けて慶太と向かい合わせになるよう中腰の体制をとる。
自主練が終わり、互いに黙々と防具の片付けを行う。陽一は、今日のことをお礼に言ようと口を開ける。
「慶太、今日は「言っとくけどな!お前が部活に参加するまでの限定参加だ。こんな面倒臭い事は二度としねぇからな!」
慶太は陽一の話を割って入り、陽一のの事を指差して口を大きく開けて、今までの鬱憤を晴らすかの様に話し続ける。
「それにな、夕方の部活なんてな、お前が居なくて俺はサボれねぇし大変なんだぞ!」
「サボろうとするな」
サボりたい気持ちを抑えられない慶太を容赦なく言葉で切り伏せる。
「だからさぁ………早く部活に戻ってこいよ」
「おぅ」
照れ臭くなったのか顔を下に向ける慶太に、素直な気持ちを嬉しく感じる陽一だった。
朝練も終わり、鍵を持っていた慶太が体育館の扉を閉める。鍵を締めようとすると、突然鍵が手を元から離れて、扉の下にある側溝に向かって落下する。落ちる直前の所で、陽一が右手で鍵をキャッチする。
「ナイスキャッチ、陽一!」
「慶太、気を付けろよ。3ヶ月前も、鍵を側溝に落として松下先生に鍵を拾ってもらったばかりだろう」
慶太に呆れながら、鍵を渡す陽一。以前に、2人で自主練をした後、戸締まりの時に側溝に落として、偶然通りかかった松下先生が拾ってくれたのだ。
「あの時は、安西先生もいなかったから、本当に心臓が止まったぜ。あの先生いい人だから、本当に助かった」
「ちょっとおっちょこちょいだけど、いい先生だよな」
この前、廊下で派手に転んでいたのを思い出して、思わず苦笑いをする陽一。