霊感少年とメリーさん
「どうして、ここにいるんですか?」
「綾川先生が体調不良でお休みになったから、代わりに来たんだよ。早く席に着きなさい」
いつもよりも増して、淡々と穏やかに話す松下先生に違和感を感じる陽一。何も出来ず立ちすくしていると、突然開いていたドアが、大きな音を立てて勝手に閉まる。
「先生の話しも聞かない、おまけに遅刻もして、いけない子だな」
ニヤっと松下先生が笑うと、それと同時にクラスメイトが突然立ち上がる。
クラスメイトたちは、下にうつむき無言だった。この異常な現象に気づいた陽一は、慌てて竹刀袋から竹刀を取りだそうとするが、突然両腕に痛みが走る。右腕を山田が、左腕を原田に掴まれる。
「山田、原田、離せよ!」
陽一の問いに答えず、同い年の子どもとは思えない力で教室の真ん中へと強制的に引きずられ移動される。それと同時に、カタカタと音を立てながら、机や椅子が空中を舞っていた。
「そんないけない子には、お仕置きをしないと」
【クスクスクス。】
松下先生の声と、先程の女性の笑い声が重なって聞こえる。松本先生の背後の黒板に、突如五十音と鳥居のマークが出現した。
【捧ゲロ、捧ゲロ、私ニ捧ゲロ!!!】
松下先生と悪霊一緒にクラスメイト達も陽一に言い続ける。
「お前の仕業か、悪霊!!!」
目の前の光景に、この悪霊が生け贄こっくりさんの首謀者と気づく。陽一は、力ずくで両腕を振りほどこうとするが、山田と原田の力はさらに強まった。
「悪い!山田、原田!」
陽一は二人に謝った途端、山田の腹に右膝を入れる。山田が倒れた後、捕まれた左腕ごと原田を自分の胸の方へと引き寄せる。引き寄せた途端、解放された右手の掌を真っ直ぐ伸ばし力を込めて、原田の後ろ首に手刀を入れた。原田が倒れた事により、背中に背負った竹刀袋から竹刀を取り出す。
そして、窓際に人が居ないのを見つけて、窓を背にして立ち構える。クラスメイトたちは陽一を取り囲むように立ち尽くした。
「あーあー。原田さんたち可愛いそうに容赦ないね、織原くん」
「なんで悪霊と一緒に居るんだ?!あんたも特殊能力を持ってるのか?!」
陽一の質問に、松下先生は別人のように顔を歪めて笑みを浮かべる。
「特殊能力?なんだいそれは?君が中二病発言するとは思わなかったよ」
「うるせぇ!こっちだって好きで言ってんじゃねぇよ!」
特殊能力なんて知らない人が聞いたら、ドン引きするのが目に分かるから、陽一自身もあまり言いたくない。だからこそ、松下先生に指摘をされ、羞恥心が高くなり、恥ずかしさで顔が熱くなる。
「まぁ、どうでもいいけど。さぁ、君は彼女の生け贄になりなさい」
松下先生は、自分の両肩に両手を置いて浮いている悪霊の手を握り返す。悪霊は嬉しそうにクスクスと笑い続ける。
松下先生が操られている様子がなく、むしろ自分の意志で一緒に居るように見えた。戦いたいのはやまやまだが、クラスメイトが囲むように立ち尽くし、空中に浮かんでいる机たちは、いつ襲いかかってもおかしくない状況。
入口付近は、クラスメイトと机により阻まれ、辿り着くのが難しい。何か手がないかと辺りを見渡す。ふと窓の外を見た。そして、ある考えが脳内を横切る。