霊感少年とメリーさん
「何をしても無駄だよ。大人しくしなさい」
「残念だったな。俺は、往生際が悪いんだよ」
陽一は不適な笑みを浮かべた途端、竹刀の持ち方を変えて、竹刀の先端を思い切り窓に向けて突く。その瞬間窓は粉々に割れて、窓の外へと飛んだ。
「馬鹿な!ここは4階だぞ?!」
陽一が視界から消え、松下先生は慌てて窓に駆けより下を見る。そこには、ニヤリと悪い笑みを浮かべたまま、落ちていく陽一の姿が目に写る。
陽一は体の向きを変えて、校舎側に立っている大木の先端に向かって竹刀を振り下ろす。落ちていく体の重力も重なり、竹刀の先端が捩じ込んで、大木は真っ二つに避け始めた。陽一は大木に竹刀を刺して止まろうと考えたのだ。
「うぉぉぉ!!」
普通の竹刀ならすぐに折れてしまう。しかし、陽一の手には、ボスから強化された竹刀がある。だからこそ作戦を実行したが、想像していた以上、竹刀を握る手から大木を切り裂く激しい振動が伝わり、気を抜けば振り落とされる。大木が切り裂くたび、木の破片が飛び散り、陽一に襲いかかる。顔や体全体に切り傷が出来るが、それでも痛みに耐えて離さずにいた。
突然、竹刀が幹の硬い部分に当たり、勢いが止まる。その反動で手を離してしまう。
しまったーーー!
とっさに頭を守る体勢を取る。地面と衝突する覚悟で目を閉じて身を固くするが、落下していく感覚が止まり、背中に柔らかい感触を感じる。恐る恐る目を開けると、大きな水のクッションが下にあった。
『陽一!!』
空から声が聞こえて上を見上げると、メリーが駆け降りてきた。この水のクッションは、メリーの水の力と理解する。
「メリー、ありがとう助かった」
『一体、何が起きてるの?!』
事態を飲み込めず、目を見開くメリー。陽一は、体育館での異変に気づいてメリーに連絡した事、教室での出来事を話す。話を聞き終えたメリーは、さらに驚いて動揺していた。
『貴方から連絡は入ってないわ。ただ、胸騒のぎがして早めに迎えに来たのよ。そしたら、陽一が窓から飛び降りてるのが見えて、、、』
だんだん、メリーの言葉が歯切れ悪くなり、大きな瞳からポロポロと涙が零れ落ちる。そして、陽一の事を力いっぱい抱き締めた。
「メリー?!」
『貴方が無事で、本当に本当に良かった!』
陽一は、突然抱き締められたのに驚いて、慌てるが、自分の胸の中に居るメリーから、今にも消えそうな細い泣き声が聞こえる。
「心配かけて悪かった。一刻も早くあの空間から、出ないとヤバいと思って、この方法しか思いつかなかった」
申し訳ない気持ちになり、胸が痛くなる陽一。自分でも、無茶な事をしたのは百の承知。メリーが居なかったら、確実に死んでいたのだ。メリーを優しく抱き締めようとしたが、突然両腕を掴んだまま、陽一の胸から離れて、何かを決意した強い瞳を向ける。