霊感少年とメリーさん
『この場から離れましょう』
今は己の個人的な感情よりも、異常な事態から陽一を守る為に、行動を起こす決意をする。
「ダメだ!クラスの皆が操られてる。このままにはできねぇ!」
撤退する案を拒絶する陽一に、メリーは顔をしかめて眉間に皺を寄せる。
『ダメよ!この悪霊は危険過ぎる!こんな昼間から活動出来るなんて可笑しいわ!』
「それでも、俺だけ逃げるのは絶対イヤだ!」
互いに譲れない思いがぶつかる中、突然、キィィィという機械音が会話を遮る。鳴り響く方を探すと、校庭に設置されているスピーカーからだった。
【3ーA組の織原 陽一くん。今すぐ、校舎に戻りなさい。出ないと、皆死んじゃうよ?】
『今の声は?』
「松下先生だ。だけど、あの先生操られているというよりか、悪霊と手を組んでいる様に見えるんだよな」
『まさか憑依されてるの………?G.S.Sに連絡を入れるわ。こちら、退治専門のメリーです。緊急事態発生。憑依型の悪霊が出現しました』
メリーは、事の重体さを感じて右手首につけている実体化ブレスレットを口元に寄せて話しかけるが、
『…………もしもし?こちら、メリー。応答願います!もしもし!』
「繋がらないのか?」
『可笑しいわ。今までこんな事はなかったのに。まさか、通信手段を遮断できる程の力を持ってるの?』
応答が帰ってこず、メリーの顔色が青ざめていく。
だから、陽一からの連絡も届かなかった?電波遮断を条件に、悪霊が結界を張ったていうの?普通の悪霊なら、そこまで複雑な事なんて出来ない!どう考えたってーーー。
【今からカウントダウンを始めるよ。1分以内に校舎に帰ってきなさい。よーいスタート!】
混乱している思考を他所に、悪霊は絶望へと導くカウントダウンが始まる。
「俺は校舎に戻る」
『戦闘服も届いてない貴方をそのまま戦わせれないわ。私が絶対に皆を助けるから、貴方は逃げて』
校舎に戻ろうとする陽一の腕を掴んで、引き留めたメリーだが、腕を払われてしまう。
「戦闘服がなくたって、俺は戦える!それに向こうは俺を指名してきている!」
『さっきみたいに危ない目に遭って、今度こそ死ぬかもしれないのよ?!』
「死なねぇよ。だって、お前が守ってくれるんだろ?」
切羽詰まった表情のメリーに、陽一は動じず、ニヤッと自信を含めた笑みを浮かべる。危機的な状況だと分かってるはずなのに、毅然とした態度で話す陽一に、メリーは開いた口が閉じられない。
「お前が居る限り俺は絶対死なないし、俺の人生に立ち塞がる奴から逃げるのは俺自身が許さねぇ!だから、邪魔をする奴は全力で叩き倒すだけだ!」
『どれだけ負けず嫌いの自信家なの…』
陽一の極度の負けず嫌いに、愕然と肩を落とすメリー。いや、忘れていたのだ。この少年は何があっても己の信念を曲げず、突き進む突進タイプだった事を。そんなメリーを横目に、陽一は自信満々にニヤリと笑みを浮かべる。