霊感少年とメリーさん
一方、陽一を練習場へと送った有奈は、急いでボスの部屋と向かう。ボスの部屋に着き、ドアに2回ノックをしてボスの返事を聞いて部屋に入る。
部屋の中は、さっきよりもピリピリとした張り詰めた空気で包まれ、部屋の真ん中にメリーが立つ。正確に言えば、ボスによって立たされていた。
しかし有奈は、その光景も見ても戸惑うどころかこの事態を予測していた。
『ありがとう。有奈』
はい、と静かに返事をした有奈は、いつもの様にボスの傍らへと位置に着く。
『揃った事だし、俺達が納得いくよう説明をしてもらおうか』
ボスは、厳しい口調でメリーに話しかける。メリーは、少し怯えてビクッと体が反応する。目を逸らしたかったが、藍色の瞳に捕らえられ逸らすことさえも許されない。
『何故、織原に嘘をついた?』
ボスは鋭い瞳と冷ややかな声で、メリーを問い詰める。そんなボスを見て、一瞬ひるむが拳を握り自分を奮う。そして、恐る恐る口を開いた。
『護りたかったんです…』
小さな声で体を震えさせながら話す。そんなメリーを見て、有奈は胸が締め付けられる。ボスは、はぁーと静かに溜息をついた。
『……お前の気持ちは、よく分かる。だけど、騙す様なマネはやめろ』
ボスは、さらに低い声でメリーを叱る。
『お前は織原の性格を見て、あえて話さなかった。先に話してしまうと、織原のことだから入ると言い出すのではないかと恐れた。
そして、織原にこれは仕方ないことだと丸め込ませ、織原の記憶と力を消してもらいたかった。そうだろ?』
『はい…』
メリーは、反省した声でボスに返事をする。メリーの考えは、全てお見通しだった。今までのメリーの行動は、全て陽一を守るため。だからこそ、強引な手段に出たのだ。
『お前が、あんな事を言い出した時は驚いた。本当は、あの時に“対策なんかない”って言いたかったが、何も知らない織原が混乱しないようにお前の話にのったんだ』
ボスは、理由がどうあれ嘘をついて陽一を騙そうとしたメリーに怒っている。
『対策もなにも、特殊能力を持った人間は強制的にG.S.Sに入ってもらう決まり。ただ、それだけだ』
絶対にルールを変えることは出来ないっと、一言付け足す。
『……神様が、見張っているからですか?』
悔しそうに唇を噛み締めて、ワンピースの裾をきゅっと握りしめた。
『……織原の力も記憶も消そうと思えば出来るかもしれん。だけど、クソ神が見張ってるから難しい。悪いなメリー、何もしてやれなくて』
ボスは、眉毛を八の字に曲げて謝罪をする。悲しげに、メリーを見つめる藍色の瞳は曇り始めた。
本当は、記憶も力も消してやりたい。だけどクソ神様が見張っている以上、記憶と力を消した所で俺等は上に呼ばれて幽牢(ゆうろう)にブチ込められる。
そんなことになったら、さらにG.S.S(ここ)と特殊能力を持つ人間が上界の奴らの思うつぼになっちまう。だからこそメリーの願いを叶えてやれない。
結局、俺はただ見てるだけか……。ボスは、心の中で呟き自嘲の笑みを浮かべた。
『……こちらこそ、私情を挟んでしまい申し訳ございませんでした』
メリーは、納得いかない自分を無理矢理押さえ込んで深々と謝罪をする。
本当は、こうなってしまうと心の何処かで理解していた。それでも、メリーはわずかな可能性にかけて行動をした。
するとメリーの気持ちを察したボスは、はぁーと怒りと諦めが入り交じった溜息をこぼした。
『たく。あんな制度を作りやがって。とんだ迷惑なんだよ。今も昔も!』
ボスは、怒りを抑えきれず声を張り上げた。しかし、それはどうすることも出来ない。なら、自分達が出来ることをするしかない。
『だからこそ、この制度のせいで特殊能力を持つ人間をG.S.Sに巻き込んでしまった分、俺達は全力で守ってやらないといけない。お前にもそれが分かるな?』
ボスの問いかけにメリーは小さく頷いたが、何処か腑に落ちない表情をした。そして、それを確かめるために口を開く。
『一つ尋ねてもいいですか?』
ボスは『ああ』と返事をしたが、これからメリーが何を聞いてこようとしているのか頭の中で予想する。
『ボスは、彼を見てどう思いました?』
やっぱりな……と予想が的中し、表情が曇り始めた。