霊感少年とメリーさん
埃が舞う中、跳び蹴りをした相手を確認する。そこには、綺麗な顔つきをした長身の女性が居た。有奈とはまた違った大人の魅力に、陽一は綺麗だなと眺めてしまった。
服装は、純白の着物の様な物に赤色の花が刺繍されている。中に、赤紫色の腰の所まであるチュニックの下に黒のスキニーに、金色のパンプスを履いている。髪は桃のように薄ピンク色で、一つのお団子にまとめ上げていた。
そして黄緑色の瞳は、怒りと呆れが入り交じった眼差しで少年を見下す。
『桐夜!あんたは、そこに居る餓鬼よりも大人なんだから張り合わないの!それと、これ以上練習場を壊さない!直すこっちの身にもなりなさいよ』
もう!と、頬を少し膨らませて腕を前に組む。桐夜は、慌てて起き上がり、青筋を浮かべた表情を女性に向けた。
『うるせぇ!邪魔するんじゃねぇよ、このオカマ--グエッ?!』
オカマの言葉に反応し、瞬時に桐夜の両頬をわし掴む女性。桐夜は、その手を払おうとするが、力強く掴まれて顔がギリギリと軋み、抵抗する力が奪われる。
『あぁ?今、てめぇ何て言った?二度とその言葉を発するなよ。今度発したら、二度と話せないようにのど笛を掻き切るからな』
先ほどまでの柔らかい声とは裏腹に、ドスのきいた低い声を放つ。この変貌ぶりと桐夜の発言を聞いた陽一は、この女性は女装をしている男性だと理解する。
理解した途端、陽一に悪寒と吐き気が襲いかかる。そして、男性とは知らず、綺麗だと思ってしまった自分にも吐き気を感じる。
女装をした男性は、桐夜をゴミのようにポイっと床に捨てて、般若の顔からとびっきりの笑顔で陽一に振り向く。
その笑顔は、何も知らない男性なら間違いなく一目惚れをする程、柔らかくて優しい笑みを浮かべていた。だが、全てを知ってしまった陽一にとっては、その切り替えぶりを恐ろしく感じる。
『あら、ごめんなさいね。いろいろと取り乱しちゃって。こいつの名前は桐夜。で、あたしの名前は美佳南よ。確か、貴方は織原 陽一くんよね?ボスから聞いてるわ』
「そ、そうですか……」
陽一は、臨時体制をとり身を身構えたまま、恐る恐る答えた。陽一が警戒しているとは、気づいてない美佳南は、陽一の姿を上から下までじっくりと見つめて、
『それにしても、凛々しい顔つきと名前ねぇ。あたし好きよ。これからもよろしくね。よ・う・い・ち・くん!』
「投げるな!気色悪いッ!」
美佳南から、とびっきりの投げキッスを投げられた。陽一は、自分の周りにある空気を取り払うかのように腕を振り続ける。
悪霊が作り出す空間に入った時以上に、悪寒と吐き気を感じる陽一。そして、早くメリーが来てくれないかと心の中で願い続ける。